ビル・ロビンソンのダブルアーム・スープレックス(人間風車)

2002.5.17 update

 

   
         

44年の写真。投げられている選手は凄い体勢に。

 

投げ捨てることなく、叩きつけている。

 

こちらは52年の写真。腰を痛めたのか?途中で
投げ捨てるスタイルに変更。

 

 42年にブッカーのグレート東郷を喧嘩別れした国際プロレスが、仕方なく活路を見出したのがイギリスのジョイント・プロモーションを窓口にしたヨーロッパ路線だった。たしかにヨーロッパの選手はテクニックは卓越しているが、「見せる」という要素にかけ、集客力には乏しいというのが、当時の専門家の意見だったようだが、その「見せる」要素を天性的に兼ね備えていた男がいた。それがビル・ロビンソンであった。その彼の必殺技が人間風車〜ダブルアーム・スープレックスだったことは言うまでもない。

 当時のプロレス&ボクシングのグラビアでも大々的に取り上げられているが、そこには人間風車ではなく「バックドロップ」と紹介されている。まぁ、後方に投げるというよりもたたきつけているので、バックドロップといえなくもない。たたきつけるという言葉を使ったが、ヨーロッパ時代のロビンソンのダブルアーム・スープレックスは、まさに叩きつけるという感じの強烈な殺人技である。上写真の左二枚と、ピーター・メイビアを投げた時の連続写真をご覧いただきたい。リバース・フルネルソンにとらえると、深く腰を落として一気にブリッジ。この間もグリップをはずすことなく、自分が完全にブリッジする寸前で、やっと離すという強力な投げ技である。特にメイビアとは因縁があったためか、完全にブリッジしてもグリップを離していないことが分かる。両手をふさがれた相手が受身を取れないのは言うまでもない。またダブル・アームスープレックスに行く前に、逆フルネルソンから、かける相手との力比べがロビンソンの試合の見せ場であった。逆フルネルソンで両腕の指が一本一本かかって行く、惜しい所で逃げられる・・・。必殺技をかけるまでの手に汗を握る攻防がプロレスには必要なのである。

 次の連続写真は49年に行われたAWA世界選手権試合でバーン・ガニアに炸裂した人間風車。全体的にやや体が後方に流れてしまっているが、まだ、途中で投げ捨てることなく、最後まで腕のロックは離していない。いわゆるたたき付け式の範疇に入るスタイルである。しかし、50年のアントニオ猪木とのNWF世界選手権では、後方に投げ捨てることよりも、大きく弧を描き投げ捨てるスタイルに変わっていた。この後も上段右の52年の写真のように完全な投げ捨て式になっている。これは推測だがひとつはやはり長年の激闘で腰を痛めていたのではないかということ、もうひとつはロビンソンがヨーロッパを完全にはなれ、AWAエリアに定着するにあたり、ヨーロッパスタイルの叩きつけ式ではやはり受けが悪く、会場の隅々の観客にもアピールするアメリカン・スタイルの投げ捨て式にスウィッチしたのではないだろうかという推測である。必殺技としては断然に叩きつけ式が上を行くが、残念ながら映像は残っていないようだ。旗揚げ戦のビデオ同様にTBSの倉庫に眠っているのではないだろうか?TBSが思っている以上に歴史的価値のある映像だけに、ぜひ発掘をお願いしたい。

special thanks 火の玉小僧様

 

     
             

犠牲者はピーター・メイビア

 

ここまで腰を落としていること
に注目

 

別アングルからの一枚

 

これは43年の写真だが、完全にブリッジし
ても、ブリップをといていない!

 

     
             
こちらは49年のガニア戦   一気に後方にそる。   体が後方に流れてしまっている。   この時点では投げ捨て式でなく、
従来の叩きつけ式である。

 

 ダブルアーム・スープレックスの使い手でもう一人思い出すのがドリー・ファンク・ジュニア。彼が使うとテキサス・ブロンコ・スープレックスなんて呼ばれていたようだが、彼の場合は完全なアメリカンスタイルであった。相手をグーッと持ち上げ、弧が頂点に達したところで、斜め横にぽいっと投げ捨てるスタイルである。弟子のジャンボ鶴田もアメリカン・スタイルだが背が高いだけに迫力があった。同じドリーの弟子でもボブ・バックランドは低い弧をかいて完全に後方に投げ飛ばすスタイルの人間風車を使っていた。ヨーロッパとアメリカ・スタイルを見事に融合させたものであった。

 ヨーロッパ・スタイルの叩きつけ式はロビンソンがアメリカン・スタイルに切り替えたあとは、ローラン・ボックの登場までお目にかかれなかった。ヨーロッパ時代のロビンソンを知らぬ我々の世代には衝撃的なもので、そのスピードには驚かされた。ロビンソンの日本初登場のときもそれぐらいの衝撃があったであろう事は容易に想像がつく。ほかにはアントニオ猪木がヨーロッパ・スタイルを多用したが、お世辞にもうまいとはいえなかった。欧州遠征経験をもつ藤波がグリップをそのまま離さずギブアップに持っていく「飛龍風車固め」を時折見せていたことも忘れなれない。この技は前田明も凱旋帰国第1戦で公開している。最近も安田が豪快に決めていたが、投げ捨てでなく背筋が凍るような叩きつける欧州スタイルの人間風車を復活させるレスラーが出れば、絶対に受けると思う、今日この頃である。

 

     
             

ドリーは典型的なアメリカン・
スタイルだった。

  鶴田も豪快に投げすてていた。   ボブの豪快な投げ捨て式   筆者の世代には衝撃的だったボックの人間風車。

 

 

凱旋帰国のシリーズで山本小鉄をギブアップさせた飛龍風車固め