類似技研究 その2 〜 原爆固めとその類似技

2001.1.27 update

 

前回好評を頂いた類似技研究の第2弾は、カール・ゴッチが考案したといわれるジャーマン・スープレックス・ホールドとその類似技を検証してみたい。この日本で原爆固めと呼ばれた技は、いまや一撃必殺の技ではなくなってしまったが、少なくとも昭和50年代頃までは、殺人技と呼んでもいいぐらいの超大技であった。ではまず、本家ゴッチの原爆固めをご覧頂く。

 

     

 

 
     

1950年代の原爆固め、カカトをつけたドイツの敬礼式
ブリッジに民族ギミックのにおいを感じる。

 

あのロシモフを投げた幻のジャーマンは爪先立ち
であった!

 

これは昭和45年に来日した時のゴッチの原爆固めである。相手はビル・ロビンソン、3本勝負のシングル・マッチで決まったものの連続写真だ。ゴッチはこの時すでに48歳、しかもレスラーをしばらく休んでのカムバック直後だったこともあってか、’50年代にアメリカで芸術的といわれたブリッジの片鱗も見ることは出来ない。足はべた足でブリッジの高さも低い。昭和36年の初来日のときの写真を見ても、足はべた足であり、日本ではつま先立ちの美しい原爆固めを披露していなかったのだろうか?資料をくってみると、なんとあの伝説となっているロシモフ(アンドレ・ザ・ジャイアント)を投げきったジャーマンが爪先立ちのブリッジだったのである。全盛期のブリッジほど美しくはないが、紛れもなくロシモフの200キロの巨体を爪先立ちのブリッジで支えている。まさしく神様である。

では、40年代当時日本で美しいつま先立ちの原爆固めを披露したのは誰か?日本でこの技を公開したのは、ゴッチの愛弟子であるヒロ・マツダとアントニオ猪木であった。しかしマツダもゴッチ同様べた足のブリッジ、しかし昭和40年代の猪木のブリッジの美しさは筆者をして、驚嘆の声を上げさせるに充分な美しさを兼ね備えていた。

 

     
             
     

 

これは46年にジャック・ブリスコを迎えてのUN選手権で見せた原爆固めである。ブリッジの高さ、美しさ、スピードどれをとっても絶品である。この試合はビデオ発売されているので、ぜひご覧になることをお勧めする。初代タイガーマスクのブリッジも美しかったが、ヘビー級を相手に、これだけの美しいフォルムを見せた猪木の原爆固めこそ日本一であるといっておこう。まぁ、これは昭和40年代に限っての話しだが。他には寺西勇の原爆固めも美しかった。

では、原爆固めをベースとした類似技を見てみよう。最も有名なのは、やはり昭和53年に藤波が公開したドラゴン・スープレックスであろう。相手を振るネルソンで固めそのまま後方に投げ、ブリッジして固めるという危険な技で、アンヘル・ブランコ、マンドー・ゲレロらを立て続けに負傷させ、WWFから使用禁止にされたことでも有名な技である。

 

     

 

藤波のブリッジも美しいといわれるが、全盛期の猪木のそれと比べて頂ければ一目瞭然だが、ブリッジの腰の高さと、上半身のそりが全く及ばない。これはワールド・プロレスリングの解説者であった山本小鉄も指摘していた。しかしこの技が誰もが使う技になるとは、当時小学生だった筆者は全く想像だにしなかった。はじめに藤波以外にこの技を使ったのは前田明であったと記憶している。(第1回IWGPでの猪木戦)外人レスラーでの使い手はNWA世界ジュニア王者として来日したスティーブ・カーンを忘れてはならない。彼のジャーマンは高速で力強さがあった。

 

   
         
   

 

  さて、もう一種、原爆固めの派生技として有名なのが、初代タイガーマスク=佐山サトルのタイガー・スープレックスである。相手を羽交い締めにして投げるるため、相手の自由を奪っている分、普通の原爆固めよりも脱出困難な技であった。これは当時オースイ・スープレックスと同じ技と紹介されたが、決まった形こそ同じであるが、全く別の技。オースイ・スープレックスは相手を羽交い締めにして投げるのではなく、仰向きにね転がり、ブリッジしてフォールするものであった。日本人ではマイティ井上があるじき頻繁に使っていたようだ。考案者はアル・コステロ(写真左)。

では、タイガー・スープレックスの連続写真を見て頂くが、初代タイガーの写真が手元に無かったので、2代目タイガー(=三沢光晴)のものをご覧頂く。

 

     

 

さて、いかがでしょうか?決まった形こそ美しいが、3枚目の写真を見るとかなり腰が落ちている。完璧なブリッジを見せた猪木や初代タイガーと比べると、やはり見劣りしてしまう。まぁ、このふたりと比較される方も気の毒なきがするが。では、初代タイガーの完璧なブリッジを見て頂こう。

 

   

 

このように昭和時代には大きなインパクトを見るものに与えた「必殺技」を誰もが使い、しかもフォールに繋がらないことの方が多い「見せ技」に貶めてしまった今のプロレスの風潮は憂慮すべき物である。しかし、猪木が見せたような、この技に見慣れた平成のファンを驚かせるようなダイナミックな原爆固めの使い手が登場すれば、この技も復権すると私は信じている。