2002.4.19update
「プロレスはスペクテーター・スポーツである」というフレーズはもう何度も使い古されたフレーズである。観客あってこそのスポーツがプロレスだ。レスラーはその強さを誇示すると同時に、ファンの関心をひくために努力をする。それは覆面やさまざまなギミックであったりする場合が多い。人気レスラーには個性が不可欠なのだ。それゆえに同じ技ひとつとっても、それぞれのレスラーの特徴が出るものである。 フライング・ヘッド・シザースという技は、立っている相手に正面から飛びついて脚で首にからみつき前方に体重を移動させて相手を投げるといういわゆる「見せ技」である。この見せ技であるフライング・ヘッド・シザース(以下FHS)にさらに見せる要素を加えたのが、レッド・バスチェンであった。普通、相手の頭を挟むと同時に前方に投げるのであるが、バスチェンは頭を挟むと同時に自分の状態をグイーッとそらせて大きく手を広げ、観客にアピールしてから前方に投げ捨てるというアクションを加えたのである。これによってバスチェンのFHSはバスチェン流のFHSとなるのである。 バスチェンは北西部地区、テキサス地区、ロス地区、ニューヨーク地区、AWA地区などほとんどの主要マーケットでトップになり、タイトル・ホルダーとなったレスラーである。トップになるにはこのような観客にアピールするためのちょっとした工夫の賜物であったに違いない。平成の日本人レスラーにはこのような工夫が足りないような気がするのは私だけではあるまい。 |
馬場を失神させたアルバート・トーレス |
大巨人だけに見舞った坂口 | マイティ井上は独特のFHシザースを得意とした |
オールドファンにとってFHSと聞いてまず名前が浮かぶのはアルバート・トーレスであろう。昭和40年に来日した際、馬場にこの技を見舞い、馬場が受身を取り損ねて頭からマットに激突して半失神状態となったためである。トーレスの場合はバスチェンとは違い身体を相手に密着させ、頭に脚を巻きつけると同時に前方に投げ捨てるスピーディーなFHSを得意としていたという。 この技の意外な使い手が坂口征二であった。普段は使うことがなかったが、アンドレ・ザ・ジャイアントのように自分よりでかいレスラーにはこの技を使った。やはり、普段は巨漢のパワーファイターで売っているのだから、自分より小さな相手にこの技を使うことにより、パワーファイターのイメージを損なうことを恐れたのであろう。それもまたプロレスラーの知恵である。 最後に独特のFHSを使ったのがマイティ井上であった。基本的にFHSは相手の腕を取り肩口につかまって、足を振り上げて首を挟むのであるが、マイティ井上はドロップキックに行く要領で飛び上がり、そのまま相手の首を両足で挟んで身体をひねって投げるという離れ業であった。軽業師の井上ならではのスペシャル・ホールドであった。 |