ジム・ブランゼルのスクリュー式ドロップ・キック

2002.11.29 upload
2024.12.29 remix

 

 

さすが「ハイ・フライヤーズ」と名乗っただけあって素晴らしい跳躍力だ

  打点の高さに注目!

 

     
 助走なしで腰を落とし・・・   驚くべき跳躍力   身体をねじりながら相手の胸を蹴り     マットに手をついて着地

 

 

 正面飛び式ドロップキックではスキップヤングを紹介したが、身体をひねってうつ伏せに着地するスクリュー式の名人として筆者が忘れられないのが、グレッグ・ガニアとの「ザ・ハイ・フライヤーズ」で一世を風靡したジム・ブランゼルである。

 ハイ・フライヤースの見せ場は二人揃ってのドロップキックの共演であったが、華麗さ破壊力どちらをとってもブランゼルのほうが上であった。このレスラーもドロップキックだけの「一芸さん」と思われがちだが、AWA世界王者時代の鶴田と対戦し善戦したこともあり、実は大変な実力者であった。ガニアの息子と組まされたことで、逆に超一流になれなかった男だと筆者は見ている。最初に芽を出したカンサスでシングル・プレーヤーを続けていれば、NWA世界王者候補の筆頭になっていたであろう。

 AWA崩壊後はWWFでブライアン・ブレアーとのコンビで「ザ・キラー・ビーズ」として活躍。変な蜂ダンスはいただけなかったが、ドロップキックはやはり名人級であった。ここであえてジム・ブランゼルを主役にしたのは、彼の名を後世にも伝えたいという筆者の思い入れである。

 

 
 アントニオ・ロッカの伝説のドロップキック。連発キックが得意だった   「スカイ・ロケット」と言われたパット・オコーナーのドロップキック 

  

 このスクリュー式は正面式を改良したもので、うつぶせに手をついて着地することから、連発が可能であった。この技で1950〜60年代に一世を風靡したのが、アントニオ・ロッカとパット・オコーナーである。

 ロッカはたとえが悪いが人間離れしたサルのような敏捷さを持っている。スクリュー式は連発が効く。ロッカの試合映像を確認すると10連発ドロップキックを炸裂させている試合もある。一方のスカイ・ロケットと呼ばれたオコーナーのドロップキックも連射のきく着地を見せている。両社ともヘビー級ながら人間離れしたスピードをみせている。

 この他にもドロップキックの名人といわれたレスラーは多い。その中から手元に画像のあるものをピックアップして見たい。

 

 
「フライング」のニックネームがあったフレッド・カリーのドロップキック 60年代にはオコーナー、モラレスと「ドロップキック御三家」といわれたベアキャット・ライト

 

   

スウィート・ダディ・シキの跳躍力も素晴らしい

  プリンス・ピューリンのフォームも美しい 「黒い馬場」と呼ばれたアーニー・ラッドの豪快なドロップキック

 

   

ロッキー・ジョンソンは連発キックを得意としていた。これは同士討ち!

  馬場をコーチしたペドロ・モラレスのドロップキック ビクター・リベラのドロップキックも打点が高かった

 

 ドロップキックを決め手にしていたレスラーは多い。怪奇派の代表ブル・カリーの息子であるフレッド・カリーは、「フライング」のニックネームがつけられ、ドロップキックを得意とした。TBSプロレスに一度だけ来日しているが、日本でのファイト写真はほとんど残っていないのが残念。

 もう一人、ドロップキックを切り札にしていたのがベアキャット・ライトである。198センチの巨体から繰り出すスクリュー・ドロップキックで一世を風靡し、ロスのWWAで黒人初の世界ヘビー級チャンピオンになった。

 ライトと同じく黒人レスラーは天性のジャンプ力を生かし、ドロップキックをヘッドバットと並ぶ切り札にしていたレスラーが多かった。スウィート・ダディ・シキ、プリンス・ピューリン、ロッキー・ジョンソンは日本でもドロップキックを披露。特にジョンソンはドロップキックの2連発を切り札とした。ジョンソンとのコンビで「NWAタッグ・リーグ戦」に出場したアーニー・ラッドは204センチの長身ながら見事なドロップキックを披露して日本のファンを驚かせた。

 ほかにプエルトリコ出身のレスラーもドロップキックと得意としていた。中でもペドロ・モラレスとビクター・リベラが有名。モラレスは馬場のドロップキックの師匠でもある。リベラについては全日本プロレスに登場した際、佐藤昭雄に外されて自爆し、肩を脱臼した痛々しい姿が忘れられない。

 

   

意外な使い手がザ・デストロイヤー。スピーディーなドロップキック

  鳥人と呼ばれたダニー・ホッジもドロップキックの名手 流智美氏が魅了されたトニー・チャールスのドロップキック

 

 
ポール・クリスティーは身体をひねってから相手を蹴っていた。いわゆる背面式 ガニアはクリスティと同じ背面式。勢い余って背中から着地することもあった

 

   
ケビン・V・エリックの跳躍力も素晴らしかった! 躍動感のあるプリンス・トンガのドロップキック   助走をつけて思いっきり蹴るブロディの重量級ドロップキック

 

 「覆面の魔王」ザ・デストロイヤーも意外なドロップキックの使い手。打点も高くスピードも申し分なかった。「鳥人」と呼ばれたダニー・ホッジのスクリュー・ドロップキックもフォームが美しかった。ホッジと言えばグラウンド・レスリングのイメージが強いが、ドロップキックの上手さから「鳥人」というニックネームがつけられたようである。

 欧州系ではトニー・チャールスのドロップキックも素晴らしい。流智美氏がプロレスに引き込まれるきっかけになったと告白しているほどである。

 注目して欲しいのがポール・クリスティーのドロップキックである。彼の場合は相手を蹴ってから身体をひねってうつ伏せになって着地するのではなく、蹴る前に身体を回転させ、うつ伏せに近くなった状態で相手を蹴る「背面飛び」(筆者はこの名称には違和感があるが・・・)といわれるスタイルである。このスタイルは他にバーン・ガニアが得意としていた。クリスティーは未来日に終わりその豪快なドロップキックは日本では披露されずに終わった。

 他にはケビン・フォン・エリック、プリンス・トンガが放つ助走なしのドロップキックも驚異的な跳躍力とフォームの美しさで見応えがあった。超ヘビー級ではブルーザー・ブロディの助走をつけてのドロップキックは破壊力充分だった。

 

 
伝説の22連発ドロップキックで売り出したミル・マスカラス! やはりマスカラスは技を出している時の身体のフォームが美しい

  

       

マスカラスもドロップキックの名手。ふわっと飛び上がり

  身体をひねりながら相手を蹴る さらに体をひねり・・・    両手でマットに着地

 

 ドロップキックと言えば、ミル・マスカラスを忘れるわけにはいかない。来日前には「ドロップキック22連発が可能」と喧伝されていた。マスカラスのドロップキックは、なんと言ってもジャンプした後の身体のフォルムが何と言っても美しい。これは天性のものであろう。マスカラスが繰り出す技は全て美しい芸術品のようであった。

  

 

ジャイアント馬場の豪快な32文ロケットキック!

  猪木は新日本プロレス時代にスクリュー式に修正

 

     

マイティ井上は片足(右足)だけでける独特のスタイル

   馬場の顔面を蹴る鶴田!  

タイガーマスクはドロップキックを別次元に押し上げた

 

   
 
   
         
         

  

 日本人ではなんと言っても若き日のジャイアント馬場が最大の使い手。ペドロ・モラレスからコーチされて体得したというエピソードは当時の逸話としては珍しくファンタジーではなく実話であった。 「32文ロケット・キック」の名称がつけられ。一発でフォールを奪える破壊力があった。

 日本プロレス時代は正面飛びドロップキックを繰り出していたアントニオ猪木だが、新日本プロレス旗揚げ後はスクリュー式ドロップキックを使った。どういうきっかけで修正したのか、また誰にコーチを受けたのか…は興味深い。

 マイティ井上は、相手の胸を右足一本で蹴ってから、身体を半転させてひねって着地するという変則的なドロップキックを得意としていた。

ジャンボ鶴田のドロップキックもヘビー級の迫力が十分で見応えがあった。特に馬場との初対決となったオープン選手権の公式戦「、第4回チャンピオン・カーニバル」でみせたドロップキックは伝説的。社長であり師匠である馬場の顔面を思いっきり蹴り上げていた。よっぽど鬱憤がたまっていたのか? こういった鶴田の無鉄砲さは魅力だったのだが…。

 日本人で最高の使い手は初代タイガーマスクの佐山聡に尽きる。佐山はこのオーソドックスな技を芸術品に昇華させ別の次元にこの技を押し上げたと言える。やはりタイガーマスクは「天才」という形容がふさわしいアスリートであった。