豊登の逆エビ固め

2002.9.15 update
2002.10.16改訂
2002.10.23改訂
2005.1.21改訂

 

 
裏返す時の攻防も見ものだ!  

渾身の力で締め上げる。なんと力強いことか!

 

 2002年夏のオフ会で「豊登VSデストロイヤー」のWWA世界選手権(40年2月26日)のビデオが上映された。この試合は結局、61分フルタイムの引き分けになるのだが、この試合で出た大技と呼べる技はこの逆エビ固めだけであった。一本目豊登はしつこくアームバーでデストロイヤーの腕を責める。どういうフィニッシュでの布石か?と思ってみていたら、デストロイヤーの倒立式ニースタンプであっさり豊登はフォールされてしまう。二本目も豊登は腕責めを続けるが、フィニッシュはなぜかショルダースルーからの逆エビ固めであった。

 しかし「なぜ腕殺しから逆エビ固めなのか?」という疑問を一瞬忘れさせるほど、豊登の逆エビ固めには見るものを納得させるものがあった。相手の両足を脇で挟んで力強く裏返すと、うつ伏せになった相手をまたぐ。そしてこのときにしこを踏むように両足を順番にドスンドスンとやってから腰をおろしてぐっと締め上げる。こういうアクセントを挟むことによって、見るものをして「これは効くなぁ!」という思いにさせる・・・これがいわゆる名人芸であろう。また、ユセフ・トルコがレフェリーを務める際は、相手がギブアップするとトルコがバンバンを豊登の背中をたたく。それでも技を解かない豊登の耳元でトルコが「ギブアップ!」と叫ぶと、ようやく気付いた豊登が技をとくというお約束もありファンを楽しませた。しかし61分大技が逆エビ固めだけという試合も今からは考えられないことである。それまでの駆け引きでいかに客をあきさせないか?が重要であり、豊登とデストロイヤーは見事に客を引っ張っていた。ゆえに逆エビ固めが出たときの観客の反応はすさまじいものであった。「大技を安売りしない」これが一流の証でもあったといえよう。ちなみに豊登は逆片エビ固めでルター・レンジの左足を抜いている。破壊力も本物だ。

付記:ルター電子レンジさんから以下のような情報を頂きました。

アジアタッグ奪回戦でレンジの膝を抜いたのは力道山の逆片エビです。よく豊登が抜いたとも言われていますが、アジアタッグとは別の試合で豊登の逆エビ?によってヒザを痛めており、アジア戦では狙い撃ちにあったようです。それからレンジが血反吐を吐いて耐えたと伝えられますが、歯を食いしばったため唇をかみ破ったものと思われます。 ヒザが抜けた・・・レンジの場合は左膝蓋骨折だそうです。

 

     

赤さそりタム・ライスの逆エビ固め

  この角度はえぐい!   小林もフィニッシュに多用  

やはり欧州系のレスラーの技には怖さがある。

 

 逆エビ固めという技は単純に見えて非常に危険な技である。プロレスが大衆のスポーツであった時代には「プロレスごっこで死亡」という記事をよく目にしたが、その多くは逆エビ固めで窒息死というのが原因だったという。素人が死んでしまう技を受けても死なないレスラーはいかに鍛え上げられているかということもいえよう。

 日本で最初にこの技をフィニッシュに使った外国人レスラーはタム・ライスではないだろうか?ライスのニックネーム「赤さそり」は逆エビ固めをかけるとみるみる上半身が上気して真っ赤になることからつけられたという。

 この技はほとんどの日本人レスラーが使っていた。中でも多用していたのはラッシャー木村とストロング小林である。小林はIWA世界選手権でホフマンを試合放棄に追い込んでいる。2大エースのフィニッシュがこの地味な技だったことも、国際プロレスの「華がない」というイメージにつながったともいえなくはないかも。平成に入ってしゃちほこ式なんていう急角度でエビゾリにする逆エビ固めがはやったが、これはなんとジャイアント馬場が昭和40年代に使っていた。これはえぐい!

 そして注目して欲しいのがマーティン・ジョーンズの逆エビ固めである。これはもう逆エビ固めの領域を越えたというか、まぁ強烈な複合技になっている。しっかりと脚をロックし、膝を腰に当ててタイガーマスクの背骨を痛めつけている。やはり欧州系レスラーの使う技からは、見た目以上の怖さというものがある。このマーティン・ジョーンズはスチーブ・ライトとならびタイガーマスクが苦戦した欧州系レスラーの一人で、結局試合には負けるが負けても涼しい顔をしていたのが印象に残っている。その横で勝者のタイガーは青息吐息であった。

 最後に蛇足だが、この技をめぐる攻防として技にかかってから脚の力でかけているレスラーを前方に投げるというのがあったが、ここからさらに回転エビ固め合戦というように試合が流れていった。投げられるのを防ぐため、コーナーに自分の頭を押し付けるという防御策も使われた。この作戦でジン・キニスキーが馬場から、スタン・ハンセンがリック・マーテルからギブアップを奪っている。また裏返される際に、頭を軸にくるっと回転してかけるほうを投げ飛ばすというのもあった。ロビンソン、ボック、藤原などが良く見せていたのが忘れられない。(この三人が同じ返し技を使っていたというのも興味深い)

 

 
当時の雑誌ではリバースBBと紹介されている。   エル・ゴリアスのメキシコ式は強烈!

 

 さて、欧州と並ぶ関節技の宝庫メキシコには、この「逆エビ固め」と同じ原理?の相手を腹ばいでエビゾリにさせ、背骨を責めるという技は非常に多い。今回は日本で公開されたメキシコ式逆エビ固めを紹介する。上左の写真は昭和47年にマスカラスが公開した技で、走ってきた相手をリープフロッグで飛び越えてすぐ仰向けになり、リバウンドで戻ってきたところをわきに脚を引っ掛け、転倒させ、膝を持ち上げ相手をエビゾリにすると言うもの。これで小鹿はギブアップしたようだが、あまり説得力は内容に思う。

 逆に見た目にも強烈なのがエル・ゴリアスが46年の初来日で公開したメキシコ式逆エビ固め。これは相手が完全にエビゾリになっており、脚もしっかり固定できている。本家の逆エビ固めにも遜色ないどころか、個人的にビジュアル的にはこちらのほうが好きだ。きれいな画像がないのが残念。エル・ゴリアスは小悪党的ラフファイターと軽視されがちなレスラーだが、マスカラスと並んで、このようなメキシコ特有の技を数多く日本のファンに公開しているテクニシャンである。