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   THE BEACHBOYS PET SOUNDS   
 
 
THE BEACHBOYS
PET SOUNDS


Capitol T 2456 1965

EMIミュージックジャパン
TOCP-5405
2

お勧め度 ☆☆☆
1. Wouldn't It Be Nice (Mono)
2. You Still Believe In Me (Mono)
3. That's Not Me (Mono)
4. Don't Talk (Put Your Head On My Shoulder) (Mono)
5. I'm Waiting For The Day (Mono)
6. Let's Go Away For Awhile (Mono)
7. Sloop John B (Mono)
8. God Only Knows (Mono)
9. I Know There's An Answer (Mono)
10. Here Today (Mono)
11. I Just Wasn't Made For These Times (Mono)
12. Pet Sounds (Mono)
13. Caroline No (Mono)
14. Hang On To Your Ego (bonus track)
15. Wouldn't It Be Nice (Stereo Mix)
16. You Still Believe In Me (Stereo Mix)
17. That's Not Me (Stereo Mix)
18. Don't Talk (Put Your Head On My Shoulder) (Stereo Mix)
19. I'm Waiting For The Day (Stereo Mix)
20. Let's Go Away For Awhile (Stereo Mix)
21. Sloop John B (Stereo Mix)
22. God Only Knows (Stereo Mix)
23. I Know There's An Answer (Stereo Mix)
24. Here Today (Stereo Mix)
25. I Just Wasn't Made For These Times (Stereo Mix)
26. Pet Sounds (Stereo Mix)
27. Caroline No (Stereo Mix)

恥ずかしながら筆者は中学3年から大学の1年頃まで某ビートルズ・ファンクラブに入っており、その機関誌により、ビートルズは史上最高のグループという啓蒙的思想を植え付けられていた。私をそのビートルズの呪縛から解き放ってくれたのがビーチボーイズ(以下BB5)の「ペット・サウンド」であった。80年代後半だったとおもうが、東芝EMIがBB5のキャピトルでの作品を廉価版でCD化した事があったが、この時に買ったのが「シャット・ダウン VOL.2」と「ペット・サウンズ」だった訳だ。筆者はそれまでビートルズの「サージェント・ペッパーズ」こそが、ロック史上最高のアルバムと啓蒙されていましたから、この「ペット・サウンズ」を聞いた時の驚きは尋常ではなかった。しかしながら、この「ペット・サウンズ」も結局はビートルズ迎撃の最終兵器としてブライアン・ウィルソンが放った傑作であったことに異論を挟むものはおるまい。

1963年にBB5は「サーフィンUSA」の大ヒットでサーフィン・サウンド流行の先鞭を付け、そのキングの座を手に入れスターダムにのし上がった。しかし、良いことは長く続かない。サーフィン・サウンドの波を上回る大きな波によって彼らは一瞬でワイプアウトされてしまう。彼らをワイプアウトさせた荒波こそブリティッシュ・インベイジョンの波であり、その旗手がビートルズであった。この日以来、ブライアンの作品作りはイコール、ビートルズ(以下B4)との闘いを意味した。しかし、ブライアンが孤独な戦いを続けていた隣の部屋では弟のカールが壁にB4のポスターを貼り、彼らのサウンドに熱狂していたという。この様な状況で元々ナイーブなブライアンが精神的に追い込まれたことは言うまでもない。

しかしブライアンは戦った。「ヘルプ・ミー・ロンダ」や「アイ・ゲット・アラウンド」「ファン・ファン・ファン」「ダンス・ダンス・ダンス」の3部作など、彼の武器は太陽、車、海、女の子・・・ファンもレコード会社も、そしてほかのメンバーそれを望んでいた。しかしブライアンは悩む。B4の傑作「ラバー・ソウル」の出現だ。このアルバムはそれまでのビートグループの作品・・・アイドルのラブ・ソング集・・・から一歩進んでいた。この作品を聴いたブライアンは太陽、車、海、女の子のBB5との決別を決心する。そして作り上げたのがこのアルバムであり、と同時にこれは彼の自伝であった。このアルバムは少年から大人への脱却が大きなテーマになっている、と同時にブライアンのビーチボーイスへの決別・・・自分を見詰め直した結果の独白・・・彼自身の苦悩を見事に普遍的なテーマに投影させているのである。だからこそこのアルバムは美しく、悲しい。

筆者はこれまで多くのアルバムを聞いてきたが、そのメロディー歌詞を聞いて涙があふれたというのは、このアルバムのほかに知らない。このアルバムを初めて聞いたのが10代の最後ということもあったのであろう。僕はブライアンが自分の気持ちを代弁してくれているような不思議な気持ちになったのを覚えている。このアルバム中のフェバレットは「僕を信じて」だ。

「駄目になり掛けたら、折れてくれるのはいつも君。今までひどいことをしてきたのに、君は今でも僕を信じてる。僕は今にも泣き出しそうだ。」

青春ですよ。ブライアンの優しさがあらわれた曲だと思う。このアルバムは10代の少年達へのエールであり、大人には当時を思い出させる。このアルバムで一番美しいのは「神のみぞ知る」メロディーといい、歌詞といい、ここまで完璧なポップ・ナンバーは他にはあるまい。その他の曲もいちいち素晴らしい。素晴らしすぎる。このアルバムを聴いてビートルズは「サージェント・ペパーズ」を製作したというが、「ペパーズ」など、このアルバムの足元にも及ばない。と僕は信じている。このアルバムこそポップ史上最高のアルバムだと僕は信じている。(しかしながらビーチボーイズのベストアルバムは「トゥデイ!」であるとおもう)しかしレコード会社も、ファンも、そしてメンバーもこのアルバムを望んでいなかった。マイクには「こんな曲犬が聴くのか?」と毒づかれた。しかしブライアンは反対を押しきり、アルバムとしてリリース。しかしチャート的には大失敗。というのは、なんと発売元のキャピトル・レコードがこのアルバムをつぶしにかかったのである。キャピトルはこともあろうに「ペット・サウンズ」発売と同時期にベスト・アルバムをリリースしそちらのプロモーションに力を入れたのであった。これでブライアンの人間不信は加速し、ベッド・ルームに閉じこもってしまうのである。そして船長を失ったBB5という船は、サイケやニューロックの荒波のなかでナンパしてしまうのであった。時代を先取りし過ぎていたためにBB5の運命を狂わせたアルバムでもあるのだ、だからこそ美しくそして悲しいのだ。

【追記】
TOCP-54052はオリジナルのモノラルバージョンにボーナストラック、さらにステレオ・ミックスを加えたお得盤。カタログがころころ変わるのでお早めに入手することをお勧めする。