2006.11.29

人間の山崩れ、志熊の奇勝成る

 

 

 

キラー・シクマ関係の情報は久々の更新となります。

今回は太平洋岸で人気を誇ったマンマウンテン・ディーンとシクマの激闘を伝える新聞記事を紹介したい。当時、シクマが行なっていた試合形式も詳しく紹介されているので、ほぼ全文を引用する。

「人間の山」崩れ 志熊の奇勝成る

後襟絞に結ぶデーンの夢 観衆八千、空しく帰る数千人

待望の嵐に乗ったマン・マウンテン・デーン対志熊俊一の試合は、昨五日夜八千のファンを収容したホノルルスタデアムにおいて挙行され、先づトッスに勝ったデーンは得意のレスリングを選び、僅かに五分足らずで志熊をマットに叩きつけ、抑え込み(ママ)に移って難なくフォールを先取。引続いて柔道マッチに入り、志熊必死となってあらゆる技を連発したが効なくして二回を終わり三回に進んで突如後襟絞めに成功、満身の力を持って巨人の首を絞めればさすがのデーンもマットの上で夢を結び、四回開始のゴングに応じてふらふらしながらコーナーを出ようとすれば、志熊猛撃して追い詰め、巨躯いく度か響きを立ててマットに倒れ遂にレフェリーのブル・キャンベルは試合を中止して志熊に勝ちを与えた。

レスリング界随一の大男で物凄い力を持っているデーンを志熊の試合が行なわれたきのう、1ドル10セントのリングサイドは午前早くも一席も残らず売り切れ、ついで売り出した75セントのリザーヴ席券も瞬く間に出払い、午後6時半まで待って売り始めた55セント券は黒山のように待っていたファンによって一枚も残さず売り尽くされ、試合開始三十分前には文字通りの札止めとなったにも拘らず、木戸口付近は入場券を手に入れようとする数千の見物人ガ集って動きがとれず、物凄いほどの混雑を呈した、試合開始八時場内に入ればエワ側、山手側、ワイキキ側のブリーチャーを埋め尽くした観衆は蹴球スタンドをどんどんワイキキ側へ埋め、遂に中央まで人の山を築く盛況でハワイレスリング史に特筆されるべきものであった、デーン対志熊戦に先立って四試合行なわれたが、これは後で簡単に述べることとし早速この夜の白眉戦の経過をたどる事にしよう

志熊先づリングに現れ仮面の相手をストレートに突き放した樋上は介添え(注:セコンド)を承る、やや遅れて人間の山デーン悠々と歩を運ばせて姿を見せ、トスの結果デーンの希望にしたがってレスリングに試合開始を決定。レフェリーはブル・キャンベル。デーンのあくびが出そうな泰然とした顔と、蒼白に変じた必死の色に固い決意を漂わす志熊の顔がリングの中央で会い、さっと分かれていよいよ対戦。志熊攻勢に出てアーム・ロックをかければデーン膝頭で蹴って外し、ヘッド・ロックすれば難なく振り放し志熊の身体はロープへ飛ぶ、再びアーム・ロックを試みれば、一撃を加えて応ぜず、志熊の攻撃をまるで子供扱いに阻んでいたデーン矢庭に志熊の左手をアーム・ロックしてマットに倒し、山の如く動かず、大儀そうな目をぱちぱちさせながら相手がバタバタ逃れるべく苦しむを、快げに見物、志熊窮余の策をして中枢神経を押さえて危地を脱し、一息ついてデーンを抱え込んでヘッド・ロックをもくろんだが、石地蔵の如く踏ん張って動かばこそ、デーン夜鳴きする右腕を二,三度揮って志熊をふらつかせ、二度目のボデー・スラムから抑え込んで呆気なく先ず勝つ。

二回は柔道試合、志熊必死の色浮かべて跳ね腰、大腰、足払いなどの腰技、足技を連発したが、人間の山に対しては馬の耳に念仏の類で一向利目なく、巴投げもかからず、さらに首絞めに出れば巧みに首を縮めて逃れデーンの冷静に技を封じる防御には全く手のつけようがあろうとも思えなかった。デーンは急に志熊の右足をトー・ホールドで決めて苦痛を与え、柔道という条件を付しても志熊は歯が立たぬのではないかという懸念さえ起こった。

かくて三回に入り依然柔道試合を延長、志熊は如何なる隙を見出したか巨人の背後から首絞め(後襟絞め)に成功し遂にデーンは降参の意を表す前に意識を失い、直ちに数名の介抱によって、ようやく四回のゴングに立ち上がったがふらふらを巨躯左右に揺らぎ、志熊この機を逸せず、巨人を幾度となくマットに殴り倒して、レフェリーは遂に試合をストップして志熊に勝ちを与えた。

他の四試合

樋上は黒頭巾のレスラー(記者曰く、彼の正体はロシアのライオンといわれるコワースキー)に楽に勝ち、オーネラスはミンスキーを破り、バウザーはアグアイアに敗戦、ゴーメズとインは引き分けに終わった。

 以上、非常に興味深く呼んでいただけたのではないだろうか。

 残念ながら日時が明記されていないが、試合はハワイ州ホノルルのサッカー・スタジアムで行なわれたことがわかる。この新聞自体は、ハワイの日系人新聞ではないだろうか。

 試合形式はラウンド制の3本勝負で、1本交代でレスリング、柔道それぞれのスタイルで戦い、3本目はフリースタイルで戦っていたようである。「トッス」というのは、それぞれのスタイルを選択する為のコイントスであろう。2本目のフィニッシュは後襟締めになっているが、ディーンも胴着を着用していたのだろうか。とにかくシクマはディーンを失神させ、3本目は殴り倒してレフェリーストップで勝利を飾ったわけである。ディーンは300ポンド=約130キロの巨漢(写真左)。90キロそこそこのシクマとの試合は、ハンディキャップマッチに近かっただろう。あたかも牛若丸と弁慶の戦いさながらだっただろう。日系人のファンは狂喜したに違いない。ディーンはレスラーだけではなく、映画にも出演し俳優としても活躍しており、その人気度がうかがい知れる。そのディーンにKO勝ちしたことを考えると、シクマはハワイのエースだったといえよう。

この試合でシクマのセコンドについたの「樋上」だが、ラバーメン・ヒガミのリングネームで活躍した樋上蔦雄であろうか?その樋上と対戦した黒マスクのコワースキーというロシア人レスラーも興味深い。