ファイル46 ゴングが紹介したエル・インフェルマノの謎

2005.1.7

 

 まぁ、こんな事に引っかかる人間は、日本でも私しかいないだろうという前置きをしておいてからお話を始めます。昨年(2004年)末、未来日外国人レスラー名鑑の怒涛の更新を行なったわけだが、そのなかで「エル・インフェルマノ」なるレスラーに突き当たった。昭和46〜47年にゴング誌は何度となく、この「エル・インフェルマノ」を紹介しているのだが、その写真がどう見てもドクトル・ワグナーなのである。しかし昭和47年3月号月刊ゴングの巻頭グラビアでインフェルマノ、アンヘロ・ブランコ、ドクトル・ワグナーがトリオを組んだ試合が掲載されており、腹が出てはげた中年のレスラーがワグナーとして紹介されていた。そこまでの事実をベースに書いた「未来日外国人レスラー名鑑」のエル・インフェルマノの解説が下記のものである。

 

 

エル・インフェルマノ EL ENFERMERO

1970年代前半に登場したマスクマンで、アンヘロ・ブランコとのコンビで活躍し「白い鬼」といって恐れられたというが、ブランコと組んでいたことやマスク、体つきから見て、ドクトル・ワグナーと同一人物のように思える。さらに昭和47年3月号の月刊ゴングの巻頭グラビアでインフェルマノ、アンヘロ・ブランコ、ドクトル・ワグナーがトリオを組んだ試合が掲載されているが、そこでは左写真の覆面をインフェルマノ、右写真の素顔の男をドクトル・ワグナーとしている。ゴングがインフェルマノとワグナーを取り違えたのだろうか?ちなみにインフェルマノとは男性の看護士のことらしい。オリジナルのドクトル・ワグナー(写真右)が引退したあとにインフェルマノがドクターに昇格したのだろうか?

 

 ということで、暫定的に推測の域を出ない解説を書いた訳だ。

 2005年1月3日、スペイン在住でルチャ・リブレのサイトを運営しておられる、ホセ・フェルナンデスさんから、「日本でのカジョ・ダバドについて」問い合わせのメールを頂いた。その際に、ガジョ・ダバドの件へのレスとともにインフェルマノの件を伺ってみたのである。するとすぐにレスを頂いた。結論から言えば、ゴングがインフェルマノとして紹介しているのは間違いなくドクトル・ワグナーで、写真右の中年のレスラーがインフェルマノだというのである。つまり、ゴングはドクトル・ワグナーをインフェルマノを取り違えたまま、報道していたのである。海外からの情報が少ない時代、しかもほとんど情報の入ってこなかったメキシコ・マットのことだから無理からぬ話である。

 ちなみにインフェルマノのマスクを被った写真と、引退後の写真も提供いただいたので掲載させていただく。素顔の写真はゴングに掲載されていた写真と特徴(頭の禿げ上がり具合)が酷似しており、同一人物に間違いない。氏のおっしゃるとおり、ゴングがドクトル・ワグナーとして紹介した中年レスラーこそが、インフェルマノである、と結論付けてよいだろう。看護士がドクターに昇格したのではなく、メディコ(医師)のパートナーだったわけだ。しかも発音はインフェルマノではなく、エンフェルメロである。

 

 
左からエンフェルメロ(インフェルマノ)、メディコ・アセシノ、エル・サント   引退後のインフェルマノ(左)

 

 さて、ここからが本題で、フェルナンデス氏が提供してくれたインフェルマノの経歴というのが非常に興味深いのである。フェルナンデス氏の許可も頂いたので、ここでそれを要約させていただく。

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 エンフェルメロの正体は、グァダラハラ出身のトニー・ナバーロ。メディコ・アセシノとのタッグ、またエル・サントを加えたトリオで活躍した。彼はアメリカでも活躍、アリゾナではエル・カイロプラティコ(指圧師)を名乗り、バディ・ロジャースとトレーニングを行なったといわれています。エンフェルメロは足4の字固めを得意としており、メキシコではエンフェルメロがロジャースにこれを伝授したのだといわれていますが、私(=フェルナンデス氏)は、これが事実かどうかは分かりません。 メディコ・アセシノが死亡してからは落ち目になり、メキシコに戻った1968年4月26日にアレナ・メヒコでウラカン・ラミレスに敗れてマスクを脱ぎました。1960年代末にドクトル・ワグナー、アンヘロ・ブランコとトリオを組みましたが、エンフェルメロのスタイルは時代遅れになっており、トリオはしっくり行かずにおわりました。1979年11月4日の試合でミスラー・ニエブラをパートナーに、リザード・ルイス&コルサリオ・ネグロとタッグ・マッチを行なった後に、自らマスクを脱ぎ(メキシコシティ以外ではマスクを着用していた)正体を明かして引退しました。引退後はジムを開き、イホ・デル・サント、ホセ・ルイス・フェリシアーノなどの名レスラーを輩出しました。

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 というわけで、このエンフェルマノというレスラーは、なんろバディ・ロジャースに足4の字固めを伝授したという話もあるほどの大物だったのである。日本では語られたことのなかったプロレスの裏面史を掘り起こしたような気分である。小さな疑問も見過ごさずにくらいついてみるものである。

special thanks to Mr. Jose Fernandez