ファイル26 これが本物の恐怖の改造人間ファントマだ!

 

 

G誌が掲載した写真

 

タイガーマスクに登場したファントマ

 

 昭和40年代G誌の名物企画に怪奇派レスラー特集と言うものがあり好評を呼んでいた。しかしネタ不足を補うため(?)「バギラ」という想像の産物と思しき怪奇派レスラーまで生み出してしまった。バギラとはジャングルブックに登場する黒ヒョウの名前だが、東南アジアにヒョウに育てられた男がレスラーとしてデビュー、スティーブ・リッカードを血だるまにした!という記事で、バギラの写真として紹介されていたのは、ほとんどヒョウのような形相の化け物の写真であった。しかし、当研究室のbbsで「あれはホラー映画に登場したモンスターの写真ですよ」という情報が寄せられたのである。

 何度も書いているが、昭和と言う時代は今から考えれば信じられないくらい海外からの情報が少なかった。特にプロレスの情報など、専門誌が紹介したものを信じる以外ほとんどなかったのである。つまり「バギラというレスラーがいるらしい」という情報をもとに想像を膨らませて、適当な写真を探してきて特集を組んだとて、読者にはその真贋を判断することはほとんど出来なかったのである。しかし、これがファンの想像力を駆り立てたのだから、当時の専門誌の誇張記事(でっち上げとまでは言いません)を、糾弾する気はさらさらない。むしろプロレスの怪奇性を盛り上げるのに一役買ったと評価している。

 前置きが長くなったが、5,6年前に入手した別冊Gの昭和49年9月号で「恐怖のオカルト・レスラー大特集」という、グラビア&本文記事満載のまさに大特集が組まれている。この特集ではフレンチ・エンジェルからエル・レベルディまで32人のオカルトレスラーが紹介されている。この中で筆者の目をひいたのが「改造人間 ファントマ」であった。なんと言ってもその写真が異様なものだったからだ。まるで顔面に熱湯を被り大ヤケドをおったかのような皮膚の感じ。本当にこんなレスラーがいるのか?と、奇異に感じたのである。ファントマに関するミッシェル・ビゼー通信員の特集記事で、ファントマ自身がインタビューに答え「3年前に自家用飛行機が墜落して死ぬ前まで行った。それを大手術で身体の部分品をとりかえて生きかえった。」と言っている。しかし、筆者が不信に思ったのはファントマを紹介する写真は試合を取材したにもかかわらず、顔写真1枚のみ。何で試合の写真がないのだろう?と思ったが、当時はまだ諸先輩の洗礼を浴びていないピュアなプロレス・ファン(笑)だった筆者はG誌の記事を完全に信用したのであった。

 

 

A PICTORIAL HISTORY OF WRESTLINGに掲載されている「本物の」ファントマ

 

 3年ほど前に、筆者はタイガーマスクの完全復刻版を集め始めたのだが、この中に「どくろ仮面ファントマ」と言うのが登場する。これがゴングに紹介されていたファントマとは似ても似つかない。「辻なおき先生も勉強不足だなぁ。」なんてこのときは思ったものだ。しかし、最近「A PICTORIAL HISTORY OF WRESTLING」という貴重本を古本屋で偶然発見し、たったの1,200円で入手する幸運に恵まれた。この百科事典の本の最後のほうに異様なマスクマンの写真が掲載されていた。タイガーマスクに登場したスカル・スターそっくりのまさしく「どくろ仮面」だ。つまりG誌の写真よりも辻なおき先生の作画の方に近いのである。ここで筆者は「Gのでっち上げかよ!」と思い、早速「オカルト大特集」が掲載されているG誌を確認すると「ヨーロッパには伝統的にファントマが活躍しているが彼らはマスクマンだった。清美川がファントマを名乗ったこともあった。だが現在、英国マットで活躍するファントマは覆面レスラーではない」とあった。つまり、しゃぁんと「この記事のファントマはオリジナルのファントマとは違いますよ!」という設定がなされていたのである。しかし一度疑いをもったらシツコイ?筆者は写真をよく分析してみた。するとこれがどう考えても映画の特殊メイクのようにしか見えない。「もしや・・・バギラと同じパターン?」

 その後のG誌やP誌を調べてもファントマの写真どころか名前も登場していないのである。つまりマスクマンではないと紹介されたファントマは記事をうめるための想像の産物だったのか・・・?謎は謎のまま置いておこう。